北海道釧路から昨日東京に移動してきました。
今朝の東京は穏やかな天気です。よかったー。
さて、下の写真の人がどなたかおわかりでしょうか?
年は離れていますが、僕の兄です!
なーんていうのは冗談ですが、
僕の兄貴のような存在であることには間違いありません。
この人がいなかったら、今の下地勇はなかったでしょう。
彼の名前は徳嶺勝也、通称「かつぼー」。
僕がインディーズのころのプロデューサーです。
アルバム『天』と『Nee』はこのかつぼーが全曲アレンジ、プロデュースしてくれました。
下地勇の前期のころのギターは、全てこの人が弾いています。
「家からバス停がみ」の作者でもあります。
僕らが一緒に演奏をしなくなって、10年が経ちました。
いろんな事情があってそうなってしまったのですが、
僕らの中には、何の亀裂もわだかまりもありません。
心の中はあのころのまんまです。
僕らにはそれぞれ自分の進むべき道がありました。
かつぼーにはたくさんのことを教わり、
影響を受け、鍛えられました。
かつぼーが使っていたピックが、
10年経った今も僕のピックケースに入っています。
僕はやわらかめのピックを使うので、かつぼーの固いピックは
僕には使われないまま、でもそのおかげで、
あのころのかつぼーの指の垢が、
ギターの弦でついた傷が、
まるで時間が止まったかのように、
遺跡のようにそこに残っているのです。
10年経ってそんな話しをすると、かつぼーは、
少しシワの増えた顔をくしゃっとさせて、
「ホントに?それは嬉しいなぁ」と言ってくれました。
すると彼はおもむろに自分のポケットから何かを取り出すと、
「ほら」と手の平を広げて僕の目の前に差し出しました。
そこには色あせた古いピックが1枚。
「このピックはね、あれからずっとオレのポケットに入っているものだよ。
洗濯のときは取り出して、はき替えるズボンのポケットに入れる。
それが癖になって毎日ポケットに同じビックが入っているんだ。
たまに忘れることもあるけど、ほぼ10年毎日ね。
オレ、小銭をポケットに入れる癖があってさ、
何か買おうとするたんびに一緒に出てくるんだよ、ピックが。
そのたびにまたポケットに戻すんだけどね、
でもそうやって毎日触ってるわけよ。
なんかわからないけどさ、いいんだよな、ピックを触ると。
オレは楽しい音楽をやってたんだ、
オレは音楽を忘れちゃいないんだって、
毎日少しだけ力をもらえる気がするんだ。
だからほら、これお前にやるよ」
胸が熱くなりながら話しを聞いていた僕に、
かつぼーは、チョコレートでも食べる?
というぐらいの気軽さでそのピックを僕に手渡したのです。
10年も時が経っているのに、昨日まで一緒に演奏していたような雰囲気が、
「じゃあもらうね」と、簡単に僕に言わせようとしていました。
「え!?、いやいや、もらえないよ。かつぼーのお守りでしょ」
「いいから、持ってけ!お前にも幸せお裾分けだ、
オレは明日から別のピックを入れるから」
「いいよ」と遠慮したのに、「いいから」と何度も言われたので、
もう何というか、本当に恐る恐るいただいてきました(笑)。
今、僕の財布にはそのお守りピックが入っています。
ギターの弦ですり減っているのではなくて、全くそうではなくて、
毎日ポケットから取り出したり、戻したり、小銭とぶつかったりして、
手垢でデザインの文字も見えないぐらい、独特の摩耗をしたピックがそこに、
かつぼーの念と一緒にあるのです。
時間は容赦なく全ての人から同じように回収していく。
何かの本にそんなことが書いてあったと、かつぼーが言いました。
楽しかったことも、辛かったことも、
時間は容赦なく持っていくと。
かつぼーの白髪、僕のシワ、ピックの手垢、
時間は過ぎたんだなぁ。
でも心の中にある大切なものは回収されていない気がします。
かつぼー、ありがとう!
このピックは僕の大切な宝物にするよ。