仕事の打ち合わせで二日間宮古に行ってきました。
朝、久松漁港から海沿いの道をずっと散歩していると、
人も車もほとんど通らない静まりかえった道を、
向こうから一人の男性が歩いてくるのが見えました。
すれ違うところまで近づいて、ふと顔を見ると、
実家の近所の先輩です。
その先輩は東京に住んでいるはずでしたが、
都会の暮らしを引き払って久松に帰ってきているという噂を、
誰からとなく耳にしてはいました。
「アザ(兄貴)、なんでこんなところを歩いているの?」
と声をかけました。
「おいおい勇、お前でもう何人目かな」
笑いながらその先輩が言いました。
「オレは毎日ここを歩いているんだけど、誰かに会うと必ず
同じことを訊かれるんだよ。東京ではありえないことだったからさ、
子どものときはそうだったよなぁってつくづく思いながらなーんかおかしくてさ」
「久松に戻って来てるんですね」
「都会の生活にちょっと疲れちゃってさ、少し休みに来たんだよ」
「それで毎日この道を歩いてるんですか?」
「ああ、自分の人生を確認してるのさ」
ちょっとカッコつけたような照れ笑いを浮かべながら、でもどことなく寂しそうな眼をして先輩が言いました。
「人生の確認...ですか」
「そうなんだ。いろんなことがあったからさ。そうだ勇、あの丘の上から久松の海を見ようよ。オレの散歩コース、人生を確認するために外せないポイントだよ」
「僕もあそこが好きです。行きましょう」
ゆるやかな坂道を二人でゆっくり上っていきます。
歩きながら僕は、東京から戻ってきたときは自分も同じような気持ちだったなぁと、なぜかひとりでに先輩と同じような気持ちになっていくのを感じました。
「勇、ここからの眺めがオレは一番好きだ。最高だろ」
「ホントにいいですね」
「懐かしいけど、ずいぶん変わっちまったよな。あそこでいっつも泳いでいたし、この道は友だちと自転車競走をしたもんだ。あの頃の面影はもうないけどな。あの無人島だけが何も変わっていないってのが、何か皮肉だな」
「僕らもあそこで泳いだし、この道で自転車競走をしましたよ」
「ほう、お前らもか」
一緒に遊んだことはないのに、同じ遊びをしている。
この先輩たちがやっていたことを、僕らも同じようにやって、
同じように島を離れ、そして同じように人生を確認しに戻っている。
年齢だけが違うというだけで、この里を離れるまではほとんど変わらない暮らしをしていたはずです。それが島を離れてひとり立ちすると、全然違う道を歩んで、もしかしたらもう二度と会うこともなかったかもしれないその先輩と、こんな場所でバッタリ会ったかと思えば、同じ場所に同じ思い出を蘇らせ、同じような人生への思いに駆られている。何とも不思議な巡り会わせのようなものを感じずにはいられませんでした。
うちのおばぁがいっていた言葉、「己(どぅー)が根(にー)ゆ忘(ばし)なよ」
自分の根っこを忘れるなよ。
その言葉の意味があらためて自分の奥底に沁み入るのを感じながら、人生の確認をしに来た先輩に、僕自身いろんなことを確認させられたような気がしているのです。
みんな必死に生きているのだなぁ。
ではまた明日。