ビオレu

僕が中学生のとき、島に初めて石鹸以外の洗顔料というものが登場しました。
『ビオレu』です。
それは今まで見たことのないクリーム状の洗顔料でした。顔を洗う時は石鹸以外にないと思っていたので、かなり衝撃的な事件でした。
そしてある時からクラスのニキビ男子どもは、誰一人としてビオレuを持っていない人はいないというぐらいにビオレ洗顔の虜になっていったのです。肌を包むあの感触、心地良すぎてもう何度も洗顔しないではいられないあの甘くてまろやかな香り。それは恋する思春期の香りでした。
僕は学校で幼なじみのクラスメイトと一緒に、一度に10回も洗顔するという、ビオレ三昧の日々を送っていました。顔の皮膚が剥けるぐらいにパサパサになって痛み始めたので、さすがにこれはマズいと思ったのですが、どうしてもあの感触、甘い感覚から離れられない自分がいました。剥けそうな肌もそのままに、それでも洗顔をしまくっていました。そしてそれは僕だけではなく、何人かの友人たちも同じ状況に陥っていました。洗顔依存症というのがあるのでしょうか?僕らは脇目も振らずに洗顔をしていました。
そして最近のことです。僕は久しぶりにビオレを買って洗顔してみました。ああ、それはちょっとしたタイムマシンでした。250円ぐらいで買えたタイムマシンです。あれから何十年と経っているのに、あのほのかに甘くてまろやかな香りは残っていました。もう二度と戻れないときめきの思春期に、一瞬だけ、本当に我れに返るまでの一瞬だけタイムスリップしたような感覚になりました。
たかが洗顔、されど洗顔かな。
早く大人になってこのニキビが無くなってほしいと思っていた、あのニキビ肌さえ、今は恋しくてたまらないです(笑)。

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